ネタバレも辞さない本音♯2

『カエルの楽園』百田尚樹

評価3.7

 百田尚樹の本は今まで『永遠の0』『ボックス』などを読んだことがあり物語の詳しい設定や細部にまで行き届いたこだわりが感じられてハズレがないという印象だった。『カエルの楽園』という題名から種の違うカエル同士の戦争でも描くのかなと思っていたところカウンターショックを受けた。この作品は社会、それも私たちの所属する大小様々なコミュニティで起こりうる動きを的確に書き表していた。

 物語はアマガエルのソクラテスとロベルトが多種族の攻撃を受け平和な楽園を求めて旅をするところから始まる。たくさんの仲間を失って諦めかけたその時、彼らは理想とも思えるようなツチガエルの王国ナパージュにたどり着き平和を取り戻したかに思えたがウシガエルが現れたことによりその幻想は音を立てて崩れ始める。

 平和の楽園ナパージュのカエルたちは「三戒」という決まりが自分たちを争いから守っているのだと盲信している。もちろんそんな言葉だけで平和が保たれるわけがないが、みんなの人気者だったり情報屋だったりといった信頼や発言力のある者の扇動によってしっかりとした考えを持ってない者たちを信じさせているのだ。物語中なんども今まで「三戒」を信じていたがおかしいんじゃないかと異を唱える者が現れるがそのたびに発言力を持つ煽動者たちにお前の考え方は間違っていると激しく否定され、変革の芽が摘まれていた。

 現実社会においてもいくら正しいことを主張していても多数派を説得することは困難である。そのような多数派のうち実際その考えをもって主張しているのはほんの一部でその大半はなんとなくそうかもしれないと思っているだけの他人と違うことを恐れる自分を持たない人種である。長いものに巻かれようとする彼らは少数派の意見を少ないという理由で間違っているとみなし否定するのだ。そしてしばしばそれはいじめのような社会問題に繋がる。この作品はそういった流れに逆らうことを嫌う人たちに本当にこのままでいいのかと疑問を投げかけている。

 かくいう私も好んで他人と異なる道を選ぼうとはしないし何も考えず流れに身をまかせることに心地よさすら覚えるときすらもあるれっきとした‘サイレントマジョリティー’の1人であり日本の夜明けはまだまだ遠い。

 

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